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2014年1月3日金曜日

放射線の健康影響に関する専門家意見交換会 ~第3回“甲状腺”を考える 傍聴レポート~

 みなさま、昨年は「ママレボ」を応援していただき、ありがとうございました!
本年も、ほそぼそとではありますが、草の根レベルで発信していきたいと思いますので、どうぞ応援よろしくお願いいたします。


 さて、昨年12月にふたつの重要な会議が行われました。
ひとつは、1221日に福島県白河市で開催された「放射線の健康影響に関する専門家意見交換会」3回目の「“甲状腺”を考える」(環境省・福島県主催)

 もうひとつは、1225日に都内で開催された「第2回住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」です。

 年頭に、このふたつの会議を傍聴したレポートをまとめておきたいと思います。
かなり長文ですが、お付き合いいただけるとうれしいです。


◇福島県で多発している小児甲状腺ガンは、放射線の影響だとは考えにくい?

 まず、1221日に福島県白河市で開催された「放射線の健康影響に関する専門家意見交換会」3回目の「“甲状腺”を考える」を傍聴したレポートからです。

 この意見交換会の目的は、放射線の影響によって不安のなかで生活することを余儀なくされている福島県民の方々が、日常生活において行動判断に必要な情報や多様な意見をアドバイザーから聴取し、共有化を図るために開催されているそうです。




 3回目の意見交換会となったこの日は、福島県県民健康管理調査(以下、県民調査)で甲状腺検査を担当している鈴木眞一氏(福島県立医科大学教授)と、福島県での「小児甲状腺ガン多発」の可能性を示唆している津田敏秀氏(岡山大学教授・アウトブレイク疫学専門)との、いわば“対決”とでも言うべきプレゼンテーションが行われました。

 これまで福島県で行われた小児甲状腺エコー検査では、「悪性ないし悪性疑い」が59人(うち乳頭ガン26人、良性結節1人)見つかっています。




 しかし鈴木氏は、これまで一貫して、「現在、福島県で見つかっている小児甲状腺ガンは放射性の影響とは考えにくい」という見解を述べていました。この日のプレゼンテーションでも、同じ見解が繰り返されました。

 「放射性の影響とは考えにくい」ことの理由として示されたのは、

(1)20113月下旬に行われた1080人の子どもたち(いわき・川俣・飯舘)に対する甲状腺のスクリーニングレベルが、甲状腺ガンのリスクが上がるとされている100ミリシーベルトを超えなかったこと。

 (2)チェルノブイリと福島を比較した場合、福島は、子どもたちの甲状腺等価線量が低いこと。また日本の子どもたちは、日常的に昆布などからヨードを摂取しているので甲状腺ガンが増加することは考えにくいこと。

といった理由からです。




 よって、現在発見されている小児甲状腺ガンは、「本来、大人になって自覚症状が出てから発見されるはずだったものが、スクリーニング検査によって早期に見つかっただけ」と、結論づけられています。

 さらに鈴木氏は、この日のプレゼンテーションの度ごとに、「甲状腺ガンの予後はいい(生存率が高い)。若いほど進行が遅いのだ」ということを何度も力説していました。



100ミリシーベルト以下なら、被ばくによる発ガンは「出ない」というのは誤解

 一方で、岡山大学の津田氏は、鈴木氏とは正反対のプレゼンテーションを行いました。

津田氏が主張していたのは、次の2点です。

 (1)100ミリシーベルト以下の放射線被ばくでは、ガンは出ない」という説が誤りであること。
 (2)福島県における小児甲状腺ガンの発生は率は、すでに“多発”であるということ。

 まず(1)について津田氏は、

 「日本政府が依拠しているICRP2007勧告では、100ミリシーベルト以下の放射線被ばくでは、発ガンに関する統計的有意差がない』とされているだけで、決して『ガンが出ない』とは言っていない。
 日本の専門家でも、誰も『ガンが出ない』とは言っていないし、20136月の福島県民健康管理調査件等委員会では、100ミリシーベルト以下はガンは出ないとは言わないようにしましょう』と確認されている。にもかかわらず、いつの間にか伝言ゲームのようになって、現在、政府レベルでは『100ミリシーベルト以下の放射線被ばくではガンが出ない』という間違った解釈がされている。文科省や環境省などは、こうした間違った解釈を国民に伝えている」

と、懸念を示しました。


 このように間違った解釈がなされた理由として、津田氏は、原発事故直後に放射能影響研究所がホームページに掲載した『放射線被ばくの早見図』のなかで、「100ミリシーベルト以下はガンの過剰発生は見られない」という表記があったためではないか、と指摘。

 ちなみに放医研では、この後、ホームページで訂正を発表。「ガンが過剰発生しないことが科学的に証明されているかのように誤って解されることを避けるため、20124月の改訂時に表現を改めました」として、早見図の表記を改めています。


        (引用:http://behind-the-days.at.webry.info/201307/article_23.html


 続いて津田氏は、世界には、10ミリシーベルトに満たない低線量被ばくでも、ガンが有意にふえているデータが多数あることを示しました。

 たとえば、CTスキャンを1回受けると、受けていない人より統計的有意にガンがふえることがオーストラリアの研究でわかっていることや、自然ガンマ線でさえ、浴びる量がふえると白血病が増加する、というイギリスの研究データがあることなどを示しながら、「100ミリシーベルト以下でも有意にガンがふえる」ということを伝えました。







◇福島では、すでに小児甲状腺ガンのアウトブレイクが始まっている?

 次に津田氏は、自身の専門である「アウトブレイク疫学」の分析を用いて、現在、県民調査で見つかっている小児甲状腺ガンの発生率が、国立がん研究センターで発表されている甲状腺ガンの発生率と比べて、どの程度“多発”であるかを示しました。

 国立がん研究センターのデータによると、日本における1975年から2008年までの15歳~19歳の年間甲状腺ガンの発生率の平均値は、100万人に5です。
これを15歳~24歳まで幅を持たせても、100万人に11となります。



 しかし、県民調査で現在までに見つかっている小児甲状腺ガンの数を統計式に当てはめてみると、有病率*65と長く仮定しても、まだ統計的有意に増加しているということです。






 津田氏は、「本来、自覚症状が出て見つかるガンが、スクリーニングの結果早く見つかっているという理由だけでは、到底、説明がつかないほど多発している」と指摘しました。

(有病率*・・・・検診および細胞診をしなくても、通常の臨床環境で甲状腺ガンが診断できるようになるまでの期間)


 プレゼンテーションの結論として津田氏は、下記のように締めくくりました。

「“アウトブレイク疫学”は、いわば走りながら考える疫学だ。
アウトブレイク対策の基本というのは、多かれ少なかれ何らかの疾患のアウトブレイクが少しでも想定される場合は、そのアウトブレイクの可能性が完全に否定された場合のみ、対策を立案する必要がない。
 今は、アウトブレイクの可能性が完全に否定されるどころか、アウトブレイクの可能性を十分に予想できるデータしかない。対策を立案し実行のタイミングをいち早く設定するのが行政の責務だ」
という意見を述べました。





 
 ◇議論かみ合わず、福島県の放射線アドバイザー総動員で反論?

 後半の意見交換会においては、福島県のアドバイザーもまじえてディスカッションが行われました。
 しかし、建設的な議論というよりも、とにかく津田氏に反論したいだけなのでは?と思われるような発言が多数出て、議論がかみ合っていない印象を受けました。一部のアドバイザーから出た意見と、それに対する津田氏の問いを抜粋、編集して掲載しておきます。




************

<西 美和>(甲状腺評価部会/広島赤十字・原爆病院 小児科)
ひとくくりに「100ミリシーベルト以下」と言っても幅が広い。12ミリシーベルトと8090ミリシーベルの被ばくを同等に考えていいのか。同じように心配しないといけないのか。0100までひとくくりに評価しているように聞こえる。12ミリシーベルトの被ばくと8090ミリシーベルトの被ばくでは影響が違うんだということを明確に言ってもらわないと誤解が生じる。

<津田>
放射線被ばくによる発ガン影響は直線で、低ければ低いほど発ガンリスクは低くなる。ただし、甲状腺への被ばく量というのはWHOのデータでは若干高くなっているし、アメリカ国防総省のデータでも乳児について結構高い値になっている。
私が言いたかったのは、「100ミリシーベルト以下ならガンが出ない」というふうにメディアや官僚が信じているので、それはまずいだろうと。今日でいうリスクコミュニケーションも図れない。これは間違いだということをまず示さないと、100ミリシーベルト以下でも低ければ低いほどガンのリスクは低くなるという議論すらできなくなる。だからその間違いを正すために話した。

<鈴木眞一:福島県立医科大学教授>
CTスキャンによる発ガン率増加を示していたが、あれはもともと健康状態が悪く、受ける人はそれなりのバイアスがかかっており、一般的に偏ったデータではないかと言われている。われわれ日常診療でも差し支えるような表現になっているが、アドバイザーのみなさんの意見をお聞きしたい。

<広野町アドバイザー芥川一則>(福島工業高等専門学校コミュニケーション情報学科 教授)
私は門外漢なのだが、津田先生がお示しになったデータに関しては、ちょっと偏ったデータではないかという感じを受けた。というのはまったく健康ではない方にCTスキャンを行うことはないと思う。CTスキャンを受けなさいとドクターに言われたわけだから、なにがしかの疑いがあってデータをとっているということは、その集団自体が病気になっているという可能性が高いと考えられるが、いかがか。

<津田>
よくデータを見て、その考察と方法論を読んでいただいたらわかる。しかもCTスキャンはたくさんの部位をとっており、CTをあてた部分以外の部位のガンも増加している。100ミリシーベルト以下の発ガンを示すデータはこれだけじゃなく、お手元に配られた資料にも掲載されているが、たくさんある。「100ミリシーベルト以下ならガンが出ない」という論文のほうこそ見つかっていない。

<伊達市アドバイザー:多田順一郎>(放射線安全フォーラム理事)
津田先生は100ミリシーベルト以下でもガンがたくさん出ているという論文がたくさんあるとおっしゃっている。私は専門ではないが、そういう論文があることは承知している。ただ、ご存じのように世の中にはパブリケーションバイアスというのがあり、有意差がなかったというのは普通、論文にならない。そこをまずはっきりおっしゃらないと、どの論文もみんな出ているという議論は適切じゃない。

津田:ご存じのように、有意差がなかったという論文もたくさん出ている。

甲状腺評価部会:西 美和>(広島赤十字・原爆病院 小児科)
私は医療現場で小児科医をやっているが、おかあさんが「子どもが転んだのでCTをとってくれ」と、とらなくてもいいのに言ってくることがある。脳外科をやっているとそういうことがある。それが100ミリ以下でガンが多発するということであれば、今度は何年か後に「私たちは小さいときに頭のCTをとったからガンになったのだ」と訴えられる可能性もあるかもしれない。100ミリシーベルト以下でガンがふえないというのを否定するわけじゃないが、12ミリシーベルトの被ばくと90100ミリシーベルトの被ばくでは、レベルが違うということを必ず言ってもらいたい。数ミリシーベルトの被ばくでも同じリスクがあると思われたら困る。

<津田>
その点に関しても、論文の考察に書いてある。日本は先進諸国のなかで、ダントツのCT被ばく国であるということは、別のランセットの論文にも載っている。


甲状腺評価部会:西 美和>(広島赤十字・原爆病院 小児科)
以前、津田先生は有病期間を7年として計算されていた。しかし今回は2年とか4年とかで計算している。たとえば、直径34㎝のガンが見つかったが、これはかなり大きい。そしたらその人たちは2年じゃなくてもっと前からあったはずではないか。そのあたりがごっちゃになっている。本当の有病率はわからない。80歳の人が老衰でなくなった後、甲状腺ガンが見つかったとした場合、有病期間が4年だからといって76歳のときにできたガンかというと、そういうわけじゃないと思う。

<津田>
言いたいことはわかるが、この分析は、発生率と有病率をつなぐ式で出している。平均有病期間というのは関数分析でお好きな値を入れていただいたらかまわない。先生のお気に入りの数字を入れて計算してみてほしい。たとえ、有病期間を65年としても、まだまだ多発していることがわかる。
今はもう、「わからない」というような状況ではない。アウトブレイクというのは、わからないんだったら、リスク回避行動をとるべきだというふうに言っている。それがアウトブレイク疫学の原則だ。それと、スクリーニングするとたくさんガンが見つかるということがおっしゃりたいのであれば、チェルノブイリ周辺での非暴露者や、後で生まれた方々にはガンが見つかっていないということが説明できない。そういうふうなことを考えれば、「わからない」と言っている状況ではないと思う。

<浪江町アドバイザー:大平哲也>(福島県立医科大学医学部疫学講座 教授)
問題だと思うのは、有病率と発症率を比較したために、見た目ではものすごく倍率が高くなっていることだ。これを本当に多発といっていいのか。そこが一番の問題。臨床的に発症した甲状腺ガンの発生率と、有病率で得られた数を比較するのは、平均有病期間を考慮したとしても、そもそも発生率が違うものを比較してはいけないのではないか。もし先生が比較されるのであれば、同じ福島県内で、平成23年度の(原発に)近い地域の有病率と、二本松、本宮の有病率を比較するということであればまだしも、100万人に5人とかの国立ガンセンターの値を比較するのは実際より多く発症しているような誤解を与えるのでやめていただきたい。それから、中通り地方の被ばく量で、甲状腺ガンの発症リスクは何倍なのかということをまずお示しいただいて、実際に100万人に5人に当てはめた場合、何人にふえるのかというのを教えていただきたい。

<津田>
福島市が一番近くて、中地区が一番高い。これ割り算していただければ、一番低いところが高いところに比べて何倍あるか出てくる。それからもう少したつと、ヨウ素はそれなりに暴露しているけども、空間線量率は高くないいわき市のデータが出る。また、ヨウ素もそれほど高くないかもしれないし、空間線量率も高くない会津若松市のデータも出る。私がプレゼンテーションの間2回くらい強調して、「100万人に5人という比較はいらなくなる」と言ったのは、データがどんどんふえていったら必要なくなるからだ。


<浪江町アドバイザー:大平哲也>(福島県立医科大学医学部疫学講座 教授)
それであれば、100万人に5人というデータではなく、会津地方などのデータが出るまで待って、地域比較を行うべきだと思う。さらに個人の線量ではなく、地域、つまりエコロジカルなデータで因果関係を推計していいのか。

<津田>
はい、かまいません。

<浪江町アドバイザー:大平哲也>(福島県立医科大学医学部疫学講座 教授)
他の要素(リスク)というのは、まったく排除しているが?

<津田>
疫学論の話になるが、むしろこちらの方が、正確な評価ができる。教科書を読んでください。私が、疫学の専門家であるということを信じてもらわないと、どうしようもない。私が(数値を)高く見せよう見せようとして努力しているかのように言われているが、私は高すぎて困っている。むしろ、低く見せよう見せようと努力しているくらいだ。

<郡山市アドバイザー:太神和廣>(郡山市医師会 理事)
今までの議論を拝聴して、鈴木先生と津田先生の話はずいぶん違うと認識した。そもそもチェルノブイリ事故からもずいぶんたっているのだから、エコーの検査技術もかなり良くなっている。そんななかで、当時のデータを用いて比較するのはムリがある。この議論に決着をつけるには、福島県以外で甲状腺のエコー検査をしっかりやって、その後の2次検査もやっていけば1年以内に決着がつくと思う。また、甲状腺ガンが見つかっているのはスクリーニングの効果であるかどうかという点においても、鈴木先生がおっしゃったように経年的にやっていけば、(スクリーニング効果であれば)1年、2年たったからと言ってふえるということは絶対ない。そういうことをやっていけば、この問題は必ず決着がつく。津田先生のように、これがアウトブレイクの始まりだというのは、私は臨床の立場からすると、ちょっとムリがあるのではないかという感想だ。

************

 以上に示したのは、当日発言のあった一部のアドバイザーの発言と、津田氏による返答を抜粋したものです。
 津田氏が研究している「アウトブレイク疫学」が、日本にまだなじみの薄い学問だということを差し引いても、まったく議論がかみ合っていない印象です。

 津田氏が強調したかったことは、現時点で小児甲状腺ガンのアウトブレイクが十分に予想できるデータが出ているのだから、その因果関係が放射線であろうとなかろうと、アウトブレイクをできるだけ食い止めるべく、早急に対策を練らなければいけないということです。

 ちなみに、こうした議論の後に「今後に向けての対策」が語られるはずだったのですが、残り時間がなくなり、もっとも肝心なことは議論されずに終わってしまいました。

 傍聴していて違和感を覚えたのは、福島県のアドバザーの方々(一部ですが)が、津田氏の意見に耳を傾け、県民の健康を守るために活かしていこうという姿勢がほとんど見られなかったことです。それどころか、まるで意固地になったかのように、「現段階で多発であるというのは納得がいかない」と繰り返していました。
 彼らは、いったい誰の方向をむいて、誰を守るために任務についているのでしょうか。

 今後はもっと多様な意見に対して率直に耳を傾け、「県民の健康を守る」という目的に向かって最良の対応をとってほしいものです。

(和田秀子)


当日の動画はこちら。
※レポートには入れられなかった内容もたくさんありますので、お時間のある方は映像をぜひご覧下さい。

2013.12.21 第3回 放射線の健康影響に関する専門家意見交換会 

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