「ママレボ通信」では、「ママレボ」の雑誌には掲載されなかった、日々の取材でのこぼれ話やレポートをアップしていく予定です。

ママレボの雑誌は、こちらからご購入できます!
http://momsrevo.jimdo.com/



2014年6月20日金曜日

除染基準?毎時0.23マイクロシーベルト引き上げをめぐる問題(その2)

 環境省の主催による「除染に関する有識者との意見交換会」615日、福島市にて開催されました。参加したのは、福島市・郡山市・伊達市・相馬市、および各市の有識者です。意見交換会の後半には、各市の市長や井上環境副大臣も参加しました。


(参加者名簿)



 この日、マスコミにはフルオープンで行われましたが、一般の傍聴は認められず、朝から会場に駆けつけていた数十人の方は締め出されていました。住民にもっとも影響のあることを話し合うのに、締め出しとはおかしな話しです。



■環境省の言い訳

 レポート①でお伝えしたように、この意見交換会の目的は、4市から提出されていた除染に関する要望をもとに、今後の除染のあり方について話し合うことです。約6時間におよぶ長い会議だったので、私個人がとくに印象に残った部分を抜粋してお伝えします。

 意見交換会の冒頭で環境省の担当職員が、震災から3年を経て、「ウェザリング効果や、自然減衰などによって、原発から半径80キロ圏内の空間線量率が平均約47%下がっている」ということを説明。

さらに、除染で下げる目標については、放射性物質汚染対処特措法の基本方針で定められているように、自然減衰も含めた目標として、平成238月からの2年間で「一般公衆の年間追加被ばく量を50%低減」「子どもの年間追加被ばく量を60%低減」という数値があり、現時点で、おおむね達成されているという見解を示しました。





 そのうえで、今問題となっている毎時0.23マイクロシーベルトという数値は、除染で下げる目標値ではなく、あくまでも「汚染状況重点調査地域」を定めるための目安であると強調。「毎時0.23マイクロシーベルト」という数字が、あたかも除染で下げる目標のように伝わってしまっていることについて、「環境省の説明が十分でなかった」として陳謝しました。

 つまり早い話が、「短期間での除染の目標は達成できてるから問題ないんだけども、僕たちの説明が悪くて、みんなに毎時0.23マイクロシーベルトが除染の目標値だと勘違いさせちゃってた。ごめんね」と言いたいらしいです。
 
 たしかに“0.23”という数字は、特措法にも除染のガイドラインにも示されていません。しかし、各自治体が定める除染計画表を見てみると、多くがこの“0.23”をひとつの目安として除染に取り組んできたことがわかります。0.23が除染の基準ではないというなら、もっと早くに訂正すべきであって、今この段階になって持ち出してくること自体、「除染が進まないから基準を緩めたい」という下心が見え見えです。


■除染の効果は、どれくらいあるのか?

 続いて各市から、除染の進捗状況と除染の効果について発表がありました。

現時点で、「除染が終了」しているのは、伊達市だけ。




とはいっても、伊達市の除染は、Cエリアと呼ばれる「年間1ミリシーベルトを超える地域」については、ホットスポットを一部除染するだけで、他の市のように面的な除染はしておらず、市民から不安の声が上がっていました。伊達市の仁志田市長は、昨年の市長選の際に、「Cエリアのフォローアップ除染をする」と公約し、当選しました。が、除染基準の引き上げが行われれば、おそらくフォローアップ除染はしないつもりでしょう。いやむしろ、除染しなくてすむように、環境省に対して「基準を見直してほしい」と要望しているのだと思います。

 除染の効果については、各市から、「放射線量の高いところほど、除染の効果があらわれやすかった」という発表がありました。




それはそうでしょう。元の放射線量が高いところほど、除染による低減率は大きくなります。

 このような現状を踏まえて、伊達市の職員が資料を示しながら言った言葉はこうです。

「だから伊達市は、いち早く除染をしたんです。熱が出たときは、タミフルを飲んで
とにかく熱を下げるでしょう?熱が37度くらいまで下がったら、あとは安静にしていれば治ります。除染も同じで、ある程度下がったら、あとは余計な治療はいらないんです」
 つまり、「ある程度下がったら、除染はいらない。これからやっても意味がない」ということ。正直、このへりくつには驚きました。 


(伊達市が提出した資料から抜粋)


 さらに伊達市の放射線アドバイザー・多田順一郎氏も、「毎時1.5マイクロシーベルトの場所を、0.8マイクロシーベルトにまで下げられたことは大きな意味がある」と述べて、これ以上の除染は効果的ではない、という見解を示していました。

 しかし、毎時1.5マイクロシーベルトの場所が0.8マイクロシーベルトにまで下がったとしても、果たしてそのような場所に安心して住めるでしょうか? せめて、毎時0.23マイクロシーベルト毎時くらいまでは下げてくれよ、と思うのが一般的な心情です。

 一方で、福島市などは、明確に「法の基本方針に基づき、年間1ミリシーベルト(毎時0.23マイクロシーベルト)以下にすることを目標とする」と、資料を示しながら説明し、除染を過疎化させるために、今後の除染方法の提案などまで行っていました。


                    (福島市が提出した資料から抜粋)




 また福島市の除染アドバイザーを務める東北大学の石井慶造氏も、1軒、1軒どれだけ線量を下げられるかだ。今は、宅地の周囲20メートル範囲しか除染していないが、周囲300メートルくらいすればもっと下げられる」と述べるなど、市によって、除染への意識や取り組み方法が大きく違うことに、いまさらながら驚かされました。


■個人線量で被ばくを管理できるか
 そして大詰めの議題は、「個人の被ばく線量」についてです。この議題については、伊達市が独自に調査した、市民52,000人の個人積算線量計のデータを元に、「空間線量率が0.23以上でも年間1ミリ程度が多数。毎時0.6マイクロシーベルトであっても、年間1.21.3ミリシーベルト程度だ」として、かならずしも0.23にとらわれる必要がないことを示唆しました。


                  (伊達市が提出した資料から抜粋)
 これに対して、下記のような意見もありました。

0.23という数値は、目安として必要だ。かりに屋外にいる時間が長くなれば被ばくも多くなるわけで、外で子どもを遊ばせたいのに、ちゅうちょしている親も多い」
(東北大学・石井氏)

住民の間には、0.23という数値が浸透してしまっている。そこまで下げてほしいと思っている住民もいることはたしか」
(福島大学・西川氏)

「追加被ばく線量1ミリシーベルトは、内部被ばくも合わせた数値。それを忘れてはいけない」
(福島県立医科大学・宍戸氏)

0.23という数値が議論されているが、これまでの治験を持ち寄って、より除染を加速するための話し合いを行うことが、この会議の趣旨ではないのか」(郡山市・職員)


 しかし、この日、懇談会の進行役を務めていた崎田裕子氏(NPO法人持続可能な社会を作る元気ネット・理事)は、「安心だとは言えないまでも、毎時0.23マイクロシーベルトを超える地域に住んでいる人でも、個人線量計で1ミリを超えていないということを知らせることは大事」と、結論を誘導するような場面がたびたび見られました。


 これに対して、オブザーバーとして参加していた福島民報の早川氏からは、「これまでの話を聞いていると、この懇談会は0.23を引き上げるためのセレモニーじゃないかと思える。環境省は、今まで0.23という数値が一人歩きするのをほうっておいたのに、なぜ今になって問題視するのか。そこを本音で話し合わないといけないのではないか。このままいくと、空間線量は自然減衰しているし、個人線量で見ても1ミリ超えていないから、今後は個人線量で管理しよう、という流れになってしまう」と釘を刺す場面もありました。

 環境省はあくまでも、「0.23の意味がきちんと伝わってなかったことは申し訳ない。個人積算線量の数値がわかってきたので、その数値を踏まえて除染をどうするかを考えたい」といったことを述べるにとどまりました。


■驚くべき多田氏の発言

 そんななか、こんな暴言も飛び出しました。伊達市の放射線アドバイザーである多田氏の発言です。

 この除染事業は、安心ということは別として、たいへん巨額の国費を使っています。巨大な国費を使うというと田中角栄総理のときの日本列島改造論は悪名が高かったわけですが、日本列島改造は、その使った国費の結果、道路が残り、橋が残り、鉄道が残った。除染の場合は、安心は別として仮置き場しか残りません。つまり新しい価値の創出というのはなにもない。そこは考えておかなきゃいけない。この4市にお住まいの方の中には、そういう意識を持っておられる方は非常に少ないと思うが、たとえば飯舘村などに行くと、元通りにしてくれ、といまだにおっしゃる方がいます。これはやっぱり、もう元通りにはなりませんということを共通の認識にする必要があります。ゼロサムの話をしているかぎり、ゴールはありません。そうじゃなくて、条件闘争です。もう元通りになりませんから、どこに落としますか、と。つまり除染というのは、事故で受けたダメージを回復させる作業。でも決して0には戻りません。そうだとすると、本当は、もう除染ではなくて、プラスの要素を付加してくださいよ、というのをそろそろはじめなければなりません。マイナスの要素を減らすことばかりに逡巡しないで、なにかプラスの要素を、この福島県に付け加えるということを考えなければいけないだろうと思っております。先ほど言いましたように、除染を支えているのは国費です。原子力損害賠償機構が東電株の売却益で除染費用をつくる話もあるんですが、私はよくわかりませんが、東電株の発行残高は1兆円を切っています。それを全部売却しても除染費用はまかなえません。みなさん給与表を見ると、2.1%復興特別所得税というのを1月からとられているのはお気づきだと思います。あれは25年続きます。そういう形で、全国民が、税金で支えています。これは子どもや孫の代までの借金です。それとあとは電気代ですね。それによって、福島の復興を支えてくださっているということを福島にお住まいの方はやっぱりきっちり考えないといけない。そのお金を、有効に使うというのが支援される立場として、支援する側の人たちに対するマナーだと思っております。そこをなにがなんでも0.23マイクロシーベルト毎時を切らなければ帰れない、それを帰らない理由にするというようなことが起こってはならないと思います。たとえば、除染費用を節約できた自治体には交付金をつけるなど、なにか策を考えたほうがいい」


 もちろん、多田氏が述べるように除染が万能でないことは間違いありません。それこそ、毎時1.5マイクロシーベルトの場所を除染して毎時0.8マイクロシーベルト」までしか下がらないなら、それはムダな除染になってしまうでしょう。
 だって、そんな場所には、長期間安心して住めませんから。

だったら、今多くの方が住むことを余儀なくなれている毎時0.5マイクロシーベルト前後の場所を、全力で除染して、0.23マイクロシーベルト以下に下げるほうが建設的です。
(もちろん0.23でも高いです)

しかし、そこに住む以上は、できるかぎり線量を下げないといけませんし、プラスの付加価値をというなら、除染で線量を下げつつ、保養・移住などの権利を与えることも必要です。必要なのは、決してインフラの整備だけではないはずです。

 また、「0.23以下に下がらないから、帰らないなんて言ってはいけない」などという発言は、避難している方々を侮辱する発言であり、論外です。


■4市町の意見

 夕方からは、4市の市長と、井上環境副大臣も加わって、それぞれの意見を述べました。以下に、市長の主な発言を載せておきます。
 印象としては、本音は別として、福島市・郡山市は、効果的に除染を進めていきたいようでした。相馬市は、正直なところよくわかりません。
 基準を緩めることに賛同して、市民からクレームがくるのをおそれているようでもあります。やはり、ここでも伊達市が突出しており、仁志田市長以上に、伊達市の放射線アドバイザーである多田氏の暴言が目立ちました。


**********


<福島市、小林市長>

福島市としては、これまで環境省が定めた0.23マイクロシーベルト毎時という基準を基本にして除染をしてきた。
もし、今後国が基準を変えると言うなら別だが、そうでないかぎり、これまでどおりの除染計画に基づいて除染を進める。また、除染を加速化していきたい。除染の有効な手法があれば取り入れたいので、国としても柔軟に対応してほしい。国のほうでも、こういう方法が効果的だというのがあれば助言してほしい。すでに、3年間除染を進めてきて、データが各自治体から上がっているので、環境省はそれをもとに判断できるはず。

<郡山市、品川市長>

市民は、「原発事故前の状態に戻してほしいと思っている」という意見が出たが、自治体も同じ気持ちだ。それが可能かどうかは別として、元に戻すための努力は永遠にしていかないといけない。また、年間追加被ばく量1ミリシーベルトという数値や、0.23マイクロシーベルトという数値は、広く市民にも認識されているが、この数字がどういう算式によって出されたものなのかは、よく知らない。説明が不十分なので、一般市民も理解できるように、きちんと示してほしい。
また、算式や数値に関しては、日本だけでなく世界的に見ても納得できるものでなくてはならない。
政府は、基準を緩めたいんじゃないのか?と誤解されないように、しっかり対応してほしい。

<相馬市、立谷市長>

定められている基準は、そもそも不可解な方程式だ。
原発事故当初、国は年間被ばく量20ミリと言って、その後文科省は学校では1ミリシーベルトと言い、その後また長期的には年間1ミリシーベルトを目指すということになった。
そこで出てきたのが0.23という数字だ。にもかかわらず、0.23も本意ではないという。いったいどういうことなのか?
長期的の「長期」とは、いったいいつまでなのか?自治体によって、スタンダードがばらばらでは困る。しっかり基準を定めてほしい。

<伊達市、仁志田市長>

国が「もう、元には戻らない(原発事故前)」ということを認めるべきだという意見が、伊達市のアドバイザー、多田から出たが、それはすなわち被ばくしているという現実を認めるべきだということだ。市民も執行者も、被ばくしているという現実を認めるべきだ。
必要な除染はするが、不必要な除染はしない。現実的ではない数値を決めるから市民は余計に不安になるんだ。
食品にしても、なぜ今100ベクレルなのか?世界には、基準を1000ベクレルにしている国もあるのに。そういうことを国が言わないと、伊達市がいくらがんばってもだめ。他の市は除染をしているのになぜしないんだ、と言われてしまう。

<環境省井上副大臣>

非常に有意義な意見をいただいた。数字の意味などが明確に伝わっていないということも含め、とりまとめて1か月以内には報告させてもらう。また、現状、個人線量計では1ミリシーベルトを超えるケースが少ないということも、合わせてアナウンスしたい。国が責任を持ってやらないといけない。


■被ばくを自己責任にしてはならない

 こうした動きに対して、東京で原発避難者などの訴訟を行っている「とすねっと」の山川幸生弁護士は、「そもそも基本的には、空間線量率のモニタリングから、行政の責任で“事前”に防護することが必要で、それを個人の責任で“事後”に防護できていたかどうかを検証する、というのは住民を放射線から保護することにつながらない。
 計測した結果、『超えてしまっていた』ではおそい。放射線防護の立場にたって考えるなら、空間線量率を用いて『この数値なら絶対に1ミリを超えないだろう』という安全サイドにたって考えるべきだ。個人線量計での管理は、被ばく環境で働く人が、その敷地内で厳重に測定しているから意味があるのであって、一般人が日々の生活で24時間正しく測定することは困難である。個人線量で管理することは、被ばくを自己責任にしてしまうことにつながる」として、警鐘を鳴らしています。


 おそらく環境省は、年間追加被ばく線量1ミリシーベルトや、毎時0.23マイクロシーベルトの数値を変えることしないと思いますが、個人線量に基づいた除染の指針を発表することになりそうです。


 そもそも、これまで除染の方法や目標が、自治体ごとにバラバラだったということもおかしいのです。
 環境省は自治体に丸投げせず、国の責任において、基準をゆるめることなく、安全側にたった除染の目標値を示してほしいと思います。   (ママレボ@和田)




ママレボ♡サポーター募集中 (定期購読/年4冊送付)

サポーターになっていただけた方には、ママレボを1年間送らせていただきます!
お申し込みはこちら

0 件のコメント:

コメントを投稿