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2014年6月2日月曜日

第15回 県民健康調査検討委員会 傍聴レポート


 こちらも大変遅くなりましたが、5月19日に開かれた「第15回福島県民健康調査検討委員会」の傍聴レポートをお届けします。
 といっても、この日私は体調不良で会場にうかがえなかったため、自宅でインターネット配信を見てのレポートです。すでに、あちこちで記事があがっていますので、詳細はそちらをご覧いただくとして……、私なりに気になった点について雑感を記しておきます。

  「ベースライン調査」とは、どういうことか 

すでに報道されているように、小児甲状腺がんの人数は、調査した約
368000人のうち、悪性ないし悪性疑いが90にのぼっています。




 福島県での小児甲状腺がん検査は平成23年6月からスタート。事故当時18歳以下だった県内の子どものエコー検査が一巡するまでを「ベースライン調査」と位置づけていました。今年3月末で、会津地方の二次検査を少し残し、一巡目の検査が終了。4月2日からは、二巡目の検査を「本調査」と位置づけ、ふたたび避難区域の子どもたちから順に、甲状腺エコー検査を開始しています。

 なぜ、一巡目の調査を「ベースライン調査」、二巡目からの調査を「本調査」と呼び分けているのか――。

 福島県と検討委員会がこれまで示してきた理由は、「チェルノブイリ原発事故のときは、子どもの甲状腺がんが多発し始めたのが事故から4〜5年以降だった」ことから、事故直後からはじめた一巡目の検査では、被ばくの影響が出るとは考えられないため、子どもの基本的な甲状腺の状態を見るための「ベースライン」とする、というものです。


■被ばくの影響も除外しない、と明言

 しかし、悪性ないし悪性疑いの数がふえていくにつれ、検討委員のなかからも「ベースライン」という言葉の使い方に疑問が投げかけられ始めています。

 これまで検討委員会の公式会見は、「甲状腺がんが多く見つかっているのは、エコー検査による“スクリーニング効果”だ」とし、「福島県では、チェルノブイリで甲状腺がんが多かった0〜5歳の子どもには見つかっていないので、被ばくの影響とは考えにくい」というものでした。

 現在も、この公式会見は変わっていないのですが、委員のなかからは、この姿勢を疑問視する人も出てきています。

 座長代行を務めている清水修二氏(福島大学・人文社会学群経済経営学類・特任教授)は、この日の検討委員会のなかで、「チェルノブイリでは4〜5年たってから子どもの甲状腺がんがふえ始めたからといって、現段階で見つかっている福島の甲状腺がんが被ばくの影響とは考えにくい、と結論づけるのはいかがなものか。本格調査はこれからだと言われると、いまの調査は、最初から被ばくの影響がないと結論づけられているということになる。チェルノブイリのデータを参考にするのはよいが、判断の根拠にはしないというふうに慎重にすべきだ」と発言。
 これに対して、甲状腺検査を担当している鈴木眞一氏(福島県立医大)は、「(福島県民は)おおむね被ばく線量は高くないということはわかっているが、個人個人の線量は正確にわかっていない。今後も甲状腺検査を続けていき、その過程で明らかになった被ばくの情報と突合して、今後評価をすることになる」と述べ、個人の被ばく線量がほとんど明らかになっていない現状において、「被ばくの影響」を排除しているわけではないという趣旨の発言をしました。

 また、星座長も「重要な指摘だ」だと述べたうえで、「今年の8月には、二次検査を含めた一巡目の診調査結果が出そろう。そうなれば、これまでのようにベースラインとしてではなく、被ばく線量や地域差なども分析し、検討委員会として改めて評価する必要がある」と、発言。「現段階では、被ばくの影響は考えにくい」という見解は保持しながらも、「ベースライン」という意味合いを、改めて考えなおす必要があることを示唆しました。

 こうした委員たちの発言の変化は、県民健康調査がいつまでたっても県民の信頼を得られないことに加え、スクリーニング効果を差し引いても、予想以上に甲状腺がんが見つかっていることに対する危惧の表れではないでしょうか。


  スクリーニング効果の根拠が崩れた

 さらに記者会見では、毎日新聞の日野記者や、フリーランスの木野記者が、福島県立医大側が「スクリーニング効果」の根拠としていたロシアの「イワノフ論文」について厳しく追及。

「イワノフ論文は、福島県のケースとは年齢層も被ばく線量も大きく異なる。これではスクリーニング効果の根拠にならないのではないか」と問うと、委員の高村昇氏(長崎大学・原爆後障害医療研究所)は、「なんの論文を指しているのかわからない」と、とぼけ、異なる論文の説明をし始める場面がありました。
 さらに木野記者が、「高村さんが以前示していた2012年のイワノフ論文のことですよ!」と詰め寄ると、最終的には鈴木氏が、「イワノフ論文を引用することで、放射線の影響がそれほどないところでも、スクリーニング効果はあるということを申し上げたかっただけだ」と述べ、小児の甲状腺エコー検査に関しては、スクリーニング効果があるか否かを示す明確な論文は存在しないことを認めた形となりました。

 このような、「ごまかし」とも受け取られかねない中途半端な説明が、より一層、県民の不信を招いているのだと言わざるをえません。

 そして、ひとつ付け加えておくと、チェルノブイリでは、小児甲状腺がんの発症が事故から4〜5年たってからだった、とさかんに言われていますが、チェルノブイリでエコー検査がはじまったのは、事故から4年目以降からなのです。もし、福島県のように事故直後からエコー検査をしていたら、福島と同様に微小がんが多く見つかった可能性もあります。


■被ばくの影響を、どう「評価」するのか?

 また今後、検討委員会としてどのように被ばくの影響を“評価”するのかという点についても議題にのぼり、ここでも清水座長代行が思い切った発言をしています。

 記者会見の場で、多くの記者から「被ばくと甲状腺がんの因果関係」について質問が出たことを受け、清水座長代行は「検討委員会のなかでも、ちゃんと議論をすべきだ。我々は、ぶっつけ本番でここに座っている。数か月に一度集まって検討会を開いているだけでは、十分な評価などできない。できれば非公開で議論したい」と述べ、いずれ検討委員会として、別途協議の時間をとる必要性を示唆。これを受けて星委員長も、「その必要性は感じている。その時期が、もう迫っているのだと思う」とし、8月に一巡目の検査結果がすべて出そろうのを待って、協議する可能性を示しました。

 現時点での被ばく線量の評価は、わずか1080人の子ども(いわき・川俣・飯館)の実測値と、環境モニタリング等のシミュレーション、行動調査などからの予測といった不確実性の高いものしかなく、難航することが予測されています。また、頼みの綱となっている「行動調査」に関しても、わずか25,9という低い提出率にとどまっており、被ばくと甲状腺がんの因果関係追及は絶望的な状況です。

 一方、UNSCEAR(国連科学委員会)は、「福島原子力発電所から放出された放射性物質の量は、チェルノブイリ事故の約10分の1である」などとして、「甲状腺がんを含め、白血病や、その他の固形がんについても増加は予想されない」と、報告書のなかで早々に結論づけています。

 しかし、チェルノブイリと比べ、日本は人口密度が高いことや、避難・移住せずに低線量被ばく下で長期に生活していかざるをえないことなどから、専門家からも「過小評価だ」との批判が出ています。

 初期被ばくの推計に関する判断材料が少ないなか、事故当時、日本に滞在していた外国人の被ばく線量を測定したデータがあることが、この日の検討委員会で明らかになりました。
 記者会見で、おしどりマコさんから「海外向けのシンポジウムで、放射線医学総合研究所の栗原氏が『事故当時日本に滞在していた外国人のホールボディカウンターのデータがある』と言っていた。それはどうなったのか?」と質問したことから判明。

 この質問に対し環境省の桐生康生参事官は、「時期的にばらついていて、甲状腺のヨウ素が検出できていないものもあるが、フランスなどからそういったデータは入手している」と存在を認めました。

 そんな貴重なデータがあるなら、なぜ早く提出しないのか、疑問は募るばかりです。

 検討委員会の委員の発言が、当初の強気から少しずつ“弱気”になってきているように感じますが、8月に発表されるであろう「ベースライン調査」の評価結果を待ちたいと思います。

 また、小児甲状腺がんだけでなく、血液検査の結果についてや、福島県内で自殺者がふえていることなど、ほかにも気になる発表がありましたが、これらについては雑誌「ママレボ」内で改めて検証することにします。



 ママレボ@和田
15回福島県民健康調査検討委員会の動画と資料はこちら

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