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2015年4月26日日曜日

「ただ、ふつうの生活をしたいだけ」――応急仮設住宅(みなし仮設)の供与期間について


昨年(2014)年528日、応急仮設住宅(みなし仮設)の供与期間が20163月まで延長されたことが発表されました。今年(2015)年も、5月中の発表を目指している」と関係者への取材で明らかになっています。
現在、福島県と政府とで協議が行われているところです。供与期間が20173月まで延長されるかどうかは、自主避難者にとって、暮らしや人生を左右する大きな問題です。
 実際に、「2016年3月以降もここに住めると思いますか?」という相談が、ここ数日相次いでいます。

このタイミングで、都内に避難している方に対し「都営住宅の申し込みについて」というお知らせが届いています。これは、422日付で発送されたもの。



このお知らせを受け取った多くの方が「とうとう借上住宅(みなし仮設)を追われるのか」という不安を感じたといいます。
この都営住宅への転居は、決して避難者の救済とは言えません。ごく一部の人にとっては、ひとつの選択肢になり得るのかもしれませんが、応急仮設住宅(みなし仮設)の打ち切りともとれるお知らせは、新たな経済負担・生活環境が変わることへの不安を与えるものです。


「ぎりぎりの二重生活(夫は福島県、母子で避難中)をしているので、借上住宅の供与が終了してしまったら、避難生活を続けることができない」(郡山市→新潟県)

「夫が仕事をやめて一緒に避難をはじめた。当時は貯金を切り崩して生活していた。ようやく仕事を見つけたが、それでも収入は半減した。借上住宅があるから何とか生活できている」(郡山市→北海道)

「子どもが、震災後の避難で、突然転校したために円形脱毛症になってしまった。もう二と度と転校させたくない」(いわき市→埼玉県)

「『ここから出て行け』と言われても、行き場がない。それに、せっかく慣れた今の学校を転校させたくない。でも、このあたりで新しく部屋を借りるのは、家賃が高すぎる・・・」(福島市→埼玉県)

 「経済的なことを考えると、借上住宅の終了が、避難生活の終了、と決めていた。とうとう戻ることを考えなくてはならないのか・・・と思うと、不安でならない」(福島市→東京都)

 「来年、子どもが受験を迎える。落ち着いて受験できる環境を作ってあげたいが、借上住宅がどうなるのか分からず、かといって、公営住宅も倍率が高く、八方塞がり」(中通り→北海道)

「ただ、ふつうの生活をしたいだけなのに」(郡山市→新潟県)

そう、もらす避難者もいます。

また、これは自主避難者だけの問題だけでもありません。
たとえば、強制避難を余儀なくされた避難指示区域の避難者の中でも、お年寄りの場合は、応急仮設住宅(みなし仮設)に住み続けたいという方もいます。

「今さら家を買っても仕方がない。かといって、ようやく慣れたいまの生活環境を変えたくない。借上住宅に住み続けられるのであれば、そのまま住み続けたい」

「もう、家を買っても仕方がないと思って、お墓を買った。だから、行く場所があるわけではない」


仮に「お金を払ってもいいからこのまま住み続けたい」と願っても、それが叶わないケースも多く、応急仮設住宅(みなし仮設)の供与の打ち切りは、多くの原発避難者の生活を根底から揺るがすものです。


49日の参議院予算委員会で福島瑞穂議員がみなし仮設について質問をした際、安倍総理は

「政府としてお住まいになられているみなさまの安心にしっかりと沿えるよう、被災自治体と緊密に連携しながら適切に対応していく」

と答えています。



まもなく、延長の決定が発表されるという5月。避難者一人ひとりの生活に思いを巡らせた、誠意ある対応が待たれます。


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毎日新聞が、3月からこの問題を取り上げています。
以下の記事は、応急仮設住宅(みなし仮設)の問題点を、わかりやすく伝えています。






「自主避難者、先行き不安 仮設住宅後、見通せず 1年ごと延長「せめて数年に」」
「みなし仮設は他と違うの?」


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≪関連記事≫

ママレボ通信
「これからの避難への支援施策について――福島県中通り・浜通りの方へ」



文責/吉田千亜




2015年4月25日土曜日

福島市内の河川敷で、最大、毎時21マイクロシーベルトを観測


「河川敷の放射線量が高い」という地元の方からの報告を受け、ママレボ出版局と、子どもたちの健康と未来を守るプロジェクトなどのメンバーは423日、福島市にある渡利大橋周辺の阿武隈川河川敷を測定した。(測定した機器は、ホットスポットファインダーと日立アロカ)



春の新緑が美しい「渡利水辺の楽校」


■最大で毎時21マイクロシーベルトを観測
 この河川敷は、「渡利水辺の楽校(がっこう)」と名付けられており、平成8年度に、「地域の水辺を遊びの場・自然体験の場・自然学習の場として整備し、維持管理することを目的」に作られた。2004年には、土木学会デザイン賞を受賞しているほど美しい景観だ。


測定中

 しかし残念ながら、放射線量は依然高いまま。河川敷を地上約50㎝の高さで測定しながら歩いてみると、平均して毎時1~2マイクロシーベルトほどの放射線量が観測された。
 また、いたるところに毎時35マイクロシーベルトを超えるホットスポットが点在していた。(除染の目安は毎時0.23マイクロシーベルト)

 河川敷から階段を上って道路に上がると、毎時0.30.8マイクロシーベルトにまで下がるので、やはり河川敷は特に放射線量が高くなっているのだ。

 
 この日、測定した中で最も高かったのは、河川敷に植わっている木の根元付近。日立アロカで測定すると、最大で毎時21マイクロシーベルトを記録。毎時10マイクロシーベルトまでしか測れないホットスポットファインダーは振り切れた。
 そんなことはないだろうが、かりにこの場所に2日間居たとしたら、一般人の年間追加被ばく量1ミリシーベルトを超えてしまう。首都圏でこうした数値が見つかったら、すぐに立ち入り禁止になるはずだが、福島では話題にもならない。

特に放射線が高かった木の根元

木の根元で毎時17.05マイクロシーベルト。
最大で毎時21マイクロシーベルトを記録。

ホットスポットファインダーは振り切れた。
■「除染の方法が決まっていない」として手つかずのまま

 実は渡利地区は、原発事故直後、住民から「特定避難勧奨地点に指定してほしい」と要望が上がっていたほど放射線量が高い地域だった。(結局、住民の要望は聞き入れられなかった)そのため福島市は、渡利地区の除染を比較的早く行った。しかし、河川や河川敷は管轄が国土交通省で、国土交通省側は「河川や河川敷の除染方法が決まっていない」として除染を行っていなかった。

 地元の方の話によると、昨年までこの河川敷には、「水辺の空間放射線量は、周辺の空間放射線量より高い値となっておりますので、水路周辺には近づかないようお願いします」という看板が立てられていたが、今年になって撤去されたとのこと。

すでに放射線量が下がったと思っている住民が多いのか、この日も河川敷を、時折子どもたちが自転車で通り抜けて行ったり、ランニングしたりしていた。

  前日にメンバーのひとりが、この河川敷を日立アロカで測定していたところ、散歩中の年配男性に「放射線の測定ですか?」と声をかけられた。
数値を示したところ、「そんなに高いのですね!ぜひ多くの方に知らせてください」と頼まれたという。

 
■順次、河川敷の除染もスタート
 
 しかし、なぜ看板は撤去されたのか。そもそも、いつまでこのまま放置しておくつもりなのか。河川敷を管轄している国土交通省東北地方整備局長に問い合わせてみたところ、「河川敷の除染については、昨年末やっと環境省から河川についての除染ガイドラインが発表されました」とのこと。

利用頻度の高い河川から順に除染していくことに決まったという。「渡利水辺の楽校」も除染される予定だが、いつ着手されるかは未定。

 看板を撤去した理由については、「看板が古くなってきたから」という返答。
「除染が終わるまで、新しい看板を設置して注意を呼びかけてもらえないですか?」と依頼したところ、「至急、看板を設置します。設置したら、お電話します」と約束してくれた。

 総じて河川敷は、放射線量が高くなりやすい。以前、ママレボ通信で紹介した郡山市の藤田川周辺についても、除染されるのかどうか、追って確認する予定だ。

 また、福島県内だけでなく、近隣県においても数値が高くなっている可能性があるため、調査する必要があるだろう。

※この日、撮影した動画は後日、フクシマン・マサさんがアップしてくれます。


(ママレボ出版局 和田秀子)

※2015年4月28日追記※
国土交通省東北地方整備局長から連絡があり、渡利河川敷の除染は早くて6月、遅くても7月から着手されるとのこと。もう間もなく始まるため、注意喚起の看板は立てられないことになりました。しかし、ゴールデンウィークなどにお子さんが近づく可能性もあるので、お近くにお住まいの方は十分お気をつけください。
また、福島県内の他の河川についても、①利用頻度が高く、②周辺の住宅除染が終わっていて、③かつ他より放射線量が高い河川については、順次、除染を行うそうです。「ここの河川を除染してほしい」という要望があれば、ぜひ市町村から国土交通省に情報を寄せてほしいとのことでした。「近くの河川の放射線量が高い」という方は、お住まいの自治体か、もしくは直接、
国土交通省東北地方整備局長(024ー546ー4331)に伝えておくとよいかもしれません。国土交通省からも、改めて福島県内の自治体に呼びかけてみるとのことです。

*****************

<資料:除染関係ガイドライン「河川・湖沼等における除染等の措置」抜粋>


※関連記事

2015年4月19日日曜日

20ミリシーベルトの違法性を問う!南相馬の住民たちが、特定避難勧奨地点の解除取り消しを求め提訴

20ミリシーベルトの違法性を問う初の訴訟

 年間20ミリシーベルトの基準による避難解除は違法だとして、南相馬市の特定避難勧奨地点に指定されていた世帯を含む住民132世帯534417日、国(原子力災害現地対策本部)に解除の取り消しや精神的苦痛に対する慰謝料ひとり10万円の支払いなどを求めて東京地裁に提訴した。

東京地裁に訴状を提出しに行く南相馬特定避難勧奨地点の住民たち


 提訴に先立ち、経済産業省前で住民たちは次のような訴えを行った。

訴状提出に先駆け、経産省前で最後の訴えを行った。
(左・菅野秀一さん/右・藤原保正さん
「原発作業員の年間被ばく限度量は5年間で100ミリシーベルトが上限。平均すると1年間あたり20ミリシーベルトです。これと同じ基準を、国は私たち一般の福島県民や子どもにまで適用しています。国際的な見地から見ても、これはあまりにも高すぎる。住民たちのほとんどが解除に反対をしてきた。その声を聞いて判断するのが民主主義のはずではないのか」
原告代表・菅野秀一さん/74

「チェルノブイリ原発事故の被害にあったベラルーシやウクライナでは、法律で妊婦や子どもには年間0.5ミリシーベルトまでと定めているのに、日本はそれよりはるかに高い基準で解除するなんて恥ずかしくないのか。今、我々が立ち上がらなければ、将来、子や孫に健康被害が起こったとき顔向けができない。強引に解除するなら、何かあったときに補償が受けられるように被ばく者手帳を発行してほしいと再三訴えたが聞き入れてもらえない」(藤原保正さん/66歳)

 国は昨年1228日に、ほとんどの住民が「時期尚早」として解除に反対するなか、「年間20ミリシーベルトを下回った」「説明はつくした」として一方的に避難指示解除に踏み切った。
 原告代表・菅野秀一さんによると、勧奨地点に指定されたお宅で避難をしなかったのは、馬を飼っている1軒だけ。現在でも8割以上が戻っておらず、とくに子どものいる家庭で戻った方はいないという。



■分断を乗り越えて、住民が一致団結の訴え

 提訴が行われたあとの記者会見で、担当の河崎健一郎弁護士は、今回の提訴の意義を次のように述べた。

 「低線量被ばくについては、ここまでなら安全という閾値はないというのが国際的なコンセンサスです。国内の法令もすべて、ICRP(国際放射線防護委員会)の基準に基づいて、一般公衆の被ばく線量年間1ミリシーベルトを基準に定められています。20ミリシーベルトはこれを大きく上回っており、この数値を避難や帰還の基準にすることは“違法”であるということを、初めて司法の場で問うことに大きな意義があります。この訴訟を通して、避難指示解除についての問題点や、避難政策の在り方自体も問い直していきたい」



 河崎弁護士によると、今回、提訴に踏み切った132世帯の内訳は、勧奨地点に指定されている世帯が63世帯、指定外世帯は69世帯だという。

指定外世帯も訴訟に加わることになった理由は、「補償の有無で地域に分断が起こってはいけない」ということで、指定外世帯がまとまってADR(原子力損害賠償紛争解決センター)に申し立てを行い、これまで指定世帯と同等の賠償を受けてきたからだ。

 そもそも、年間20ミリシーベルトを超えそうなほど放射線量が高いのは、勧奨地点に指定された家だけではなかった。指定基準の毎時3マイクロシーベルト(妊婦や子どもがいる家庭では毎時2マイクロシーベルト)よりわずかに下回っていたからという理由で、「放射線量はほとんど変わらないのに指定を受けられなかった」という世帯が多くあった。 
 賠償の有無を巡り福島県内で分断が起こるなか、今回の南相馬の訴訟は住民が一致団結できた貴重な事例だと言える。二次提訴も予定しており、今後も原告の数は増える見込みだ。

 しかし、国は早くも、こうした動きを牽制している。

「南相馬の地点解除訴訟(20ミリ基準撤回訴訟)支援の会準備会」の満田夏花さんによると、国(原子力災害現地対策本部)は、まだ訴状も見ないうちに、司法記者クラブにファックスを送りつけ、下記のような国としての見解をメディアにばらまいた。

「南相馬市の特定避難勧奨地点については、除染の結果、指定時と比して線量が大幅に低下し、国際的・科学的知見を踏まえて決定された年間20ミリシーベルトを十分に下回っている」「解除に当たっては、ていねいに住民の理解を得るべく、昨年10月と12月に計4回、住民説明会を行ったほか、戸別訪問、相談窓口の開設、線量測定および清掃などの取り組みを行っている」

満田さんは、「、国記者に聞かれて、『訴状をみいうちコメントできい』どと言うのだが、この過剰反応何を表しているのだろうか」といぶかしがる。


■ 訴訟は福島だけのためではない

 ママレボ出版局は、地点が解除された昨年1228日の翌日に現地を訪れ、ホットスポットファインダーで測定を行った。その際には、玄関先でも毎時1.5マイクロシーベルトを超えるほどの高い数値が検出されたお宅もあった。

昨年末、解除されたばかりの勧奨地点のお宅の玄関先。
数値は毎時1.465マイクロシーベルトを示した。


 「せめて(除染の目安となっている)毎時0.23マイクロシーベルトを下回ったら解除してもいいが、平均して毎時0.50.6マイクロシーベルトあるような放射線管理区域なみの場所に子どもたちを戻せない。子どもの首に縄をつけて、(放射線量が)高いところに行くなとは言えない」
と、住民が話してくれたのが印象的だった。

 思い返せば、国が「年間20ミリシーベルト」を子どもにまで強いる決定を下した20114月から丸4年――。
 あのときは、子の健康を案ずる福島県の親たちが、多数、文部科学省に駆けつけ撤回を迫ったが、一切聞き入れられなかった。やっと、この違法性を真正面から問う訴訟が始まると思うと感慨深い。
 会見終了後、記者が前出の藤原保正さんに、「今回の訴訟で最も訴えたい点は何か?」と改めてうかがったところ、次のような答えが返ってきた。

「この訴訟は、自分たちのためだけに起こしたのではありません。全国のみなさんも、いつ福島県民と同じような目に遭わないとも限らない。今、20ミリシーベルトを撤回させておかないと、今後、どこかで原発事故が起きたときも同じ基準が適応されてしまいます。これでは、子や孫に健康被害が出たときに顔向けができません。だから、全国のみなさんに応援してほしい」

 明日は我が身――。この訴訟を自分のこととして見守り、応援していきたい。                                   
 (ママレボ出版局 和田 秀子)


撤回の署名はこちら



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<関連記事>
民主主義はどこへ?――強制解除される南相馬市・特定避難勧奨地点

2015年4月8日水曜日

クラウドファウンディングもスタート!「東日本土壌ベクレル測定プロジェクト」をみんなの手で成功させよう


 東日本17都府県の土壌汚染を調査する「東日本土壌ベクレル測定プロジェクト」が、市民の手で立ち上がりました。
 
今回は、このプロジェクトの概要と、3月29日に行われた「東日本土ベクレル測定プロジェクト  ~知ろう!測ろう!つながろう!~ 測定室&市民交流会」の様子を、ご紹介します。(和田秀子)


■東日本17都府県で1700か所

「市民の手で東日本の土壌汚染を明らかにしよう」
 そんな熱い思いを持った人々の交流会が3月29日、東京都内で開催された。

東日本土ベクレル測定プロジェクト  ~知ろう!測ろう!つながろう!~ 測定室&市民交流会』と題されたその集いには、北海道から九州まで、16か所の市民測定所が参加。また一般の人たちもかけつけ、総勢約70名に。会場は熱気があふれた。

 この交流会を主催したのは、各地の市民放射能測定室のデータを連携している『みんなのデータサイト』運営委員会。
『みんなのデータサイト』とは、原発事故後に全国各地にできた市民放射能測定所で、積み上げてきたデータを一元管理し、誰にでも分かりやすく手軽に検索ができるように作成・公開されたデータベースサイトのことだ。蓄積されたデータは、すでに1万件を超えている。

 さらに、『みんなのデータサイト』では、2014年秋から、東日本の土壌の放射能汚染を測定するプロジェクトもスタートさせている。
 交流会の開始に先立ち、共同代表の石丸偉丈さんは、次のようにプロジェクトを始めた経緯を説明した。

事務局長の石丸偉丈さん

「原発事故から4年が経過し、放射性セシウム134が2年ごとに半減していくなかで、今が測定できるギリギリの時期。
 今回の事故の大きさをしっかり捉えるためにも、全国の市民測定所と市民のみなさんがつながって、東日本17都府県*の土壌ベクレル調査を進めていきたい。目標は、来期までに17都府県で1700箇所の土壌を調べることです」

(*青森、岩手、秋田、宮城、山形、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川、山梨、長野、静岡、新潟)


■市民がつくりあげていく汚染地図

 すでに、同プロジェクトにも参加している、岩手の市民測定所と市民グループらが、先行して岩手県内316か所の土壌を測定している。
測定値ごとに色分けされた土壌汚染マップも完成させていた。


「土壌調査プロジェクト・いわて」の汚染マップ

 岩手をお手本にして、他県でも市民の手で土壌測定を進めていく予定だ。
 岩手の土壌測定プロジェクトで中心を担ってきた『放射線被曝から子どもを守る会・いわて』の菅原和博さんかねがさき放射能市民測定室・代表は言う。 
放射線被曝から子どもを守る会・いわて
の菅原和博さん

「岩手県では、県内の全市町村で1か所ずつは測定しようという目標を立てていました。
 とくに汚染のひどい県南地域のお母さんたちからは、『子どもの通学路や学校、公園などを測定したい』という要望が多く上がっていたので、そういった場所を中心に調べました」

 菅原さんは、土壌を採取する前には行政機関に出向き、関係部署に測定の許可を得るようにした。公園などの公共施設以外は、必ずしも許可がいるわけではないが、「行政に関心を持ってほしい」というこだわりがあったからだ。

「測定してわかったことは、事故から4年たっても油断できない状況であるということ。今後、このプロジェクトを岩手から他県に広げていきたい」(菅原さん)

 また、同プロジェクトに参加している『森の測定室・滑川』代表の主山しのぶさんは、
この土壌プロジェクトは壮大すぎて最初はとても参加できないと思っていました」と告白。
 しかし実際に、土壌サンプリング講習会を開催してみたら、近隣のグループが自発的に動いてくれたり、複雑だと思っていたサンプリング方法もやってみたらできる、という実感が持てたという。
「地域の土壌を測定することで、新たな人とのつながりが持てます。それぞれ住んでいる地域を測定していくことで、ジグソーパズルのように17都県の地図がつながっていくといいですね」
と、主山さんは意気込みを語った。

 さらに、韓国の環境団体で働いているという一般参加者の男性は、「韓国の人々は、政府の情報をほとんど信じていない。日本でも、このような市民のプロジェクトが立ち上がったということは、真実を明らかにしていくという点で非常にだいじだ」
と、エールを送った。

■参加方法は「採取」か「寄付」

 次に事務局から、このプロジェクトへの参加方法について説明があった。
 これによると、私たちがプロジェクトに参加する方法は次のふたつだ。

 ひとつは、「土壌採取で参加する」方法。もうひとつは、土壌測定プロジェクトへ「寄付する」方法だ。

 「土壌採取で参加したい」という方は、何人か仲間を集めて事務局に連絡すれば、事務局が、土壌採取の方法に関する講習会を開いてくれる。

 また、「一緒に土壌採取する仲間がいない」という方でも、事務局に相談すれば、地域で測定しているグループを紹介してもらえることもある。

 もちろん、ひとりで始めてもいい。
 仙台で「小さき花」という市民測定室を運営している代表の石森秀彦さんは、「測りたいと思ったら、まずひとりでもやってみてほしい。その様子を見て、協力してくれるようになる」と話す。

 土壌採取の方法については、下記で示すようないくつかの決まりがある。
 (※採取マニュアルはこちら)





クリックすると画像が拡大します

「面倒だな……」と感じる方がいるかもしれないが、「統一した手法で採取・測定することで、チェルノブイリや行政など、他のデータとも比較しやすくなる」(事務局)とのことなので、土壌採取する場合は、よく確認してから実行するようにしよう。

 次に、土壌採取はできないが、「寄付でなら参加できる」という方も大歓迎。 
 というのも、「ひとりでも多くの方に参加してほしい」という思いから、当プロジェクトの土壌測定料金は無料になっているからだ。
 つまり、全国の善意ある測定室のボランティアスタッフによって、つなわたりのように成りたっているのが現状。  とはいえ、これほどの大規模プロジェクトを成功させるには相当な費用がかかるので、カンパで支えていくこともだいじだ。




 また、すでにスタートしている「東日本土壌ベクレル測定プロジェクト」のクラウドファンディングから寄付する方法もある。→クラウドファウンディングはこちら https://moon-shot.org/projects/68

■分科会で熱い議論

 事務局から参加方法について説明があった後、休憩を挟んで分科会が行われた。

 分科会のテーマは、「プロジェクト全体を進めるために戦略トークをしよう」「初心者ですが質問していいですか?」「採取をしてみて思うことぶっちゃけトーク」など。

 記者は、これまで何度か福島県の土壌を測定した経験があるので「採取をしてみて思うことぶっちゃけトーク」に参加してみた。
 このなかでは、今回の土壌プロジェクトでは採取の対象になっていないホットスポットをどう扱うか、などの話題も出た。
 たとえば、河川敷などは総じて放射性物質が集まりやすく、他の場所より数値が高めに出る傾向があるため、今回の採取場所からは除外されている。
 しかし、河川敷で子どもたちが遊ぶこともあるので、土壌を採取して測定するべきではないか、といった意見も出た。
 記者自身も、福島県郡山市の、ある河川敷で土壌を測定したとき、放射性セシウム134137の合算で、1㎏あたり3万ベクレルを超える値が検出され驚いた経験がある。
 事務局長の石丸さんは、データをどう扱うかは別にして、河川敷などのデータは集めていく必要があるかもしれない」と述べ、今後、採取の方法についても見直しながらプロジェクトを進めていくと話していた。

 また、「初心者ですが質問していいですか?」の分科会に参加した、東京都在住の母親は、「今までこうした場に参加したことはなかったけど、リスクは感じていた。自宅周辺がどれくらい汚染されているのか、本当のことを知りたい」と話していた。

 このように、分科会でも活発な意見が交換され、あっという間に閉会の時間に。
 事務局長の石丸さんは、最後にこう述べた。

「1㎏あたり100ベクレル以上あれば、ドラム缶に入れて保管しなければならないレベル。しかし東日本では、あちこちで100ベクレルを超える土が見つかっているし、福島では1㎏あたり1万ベクレルを超える値が当たり前に検出されています。そんな数値を見ると、暗い気持ちになってしまいますが、未来の子どもたちのためにも、汚染状況を明らかにしていかねばと思っています」

 現実は残酷だ。しかし、事実を知らなければ、被ばくを回避することもできないし、将来、同じ過ちをくり返すことにもなりかねない。
 このプロジェクトを成功させることは、私たち大人の責任ではないか。





2015年4月5日日曜日

郡山測定レポート(6)

◆通学路にあるホットスポット

郡山市に住むHさん(6歳のお子さんのお母さん)から、「来年入学する通学路を測定してほしい」と連絡があり、2014年11月30日、お子さんの通学路を、ホットスポットファインダーで歩いて測定しました。自宅から学校まで、約30分、高低差のある道のりです。

アスファルトの上では0.2μSv/h~0.3μSv/hなのですが、土の部分では、2倍~数倍の数値になります。これは、除染されていない場所ではよくある結果です。

「土の部分はできるだけ歩かないように子どもに伝えます」


と、注意点をひとつひとつ確認しながら歩きました。

たとえば、この植え込み。

同じ植え込みが数メートル間隔で並んでいるのにも関わらず、ある一か所の植え込みだけが、1.5μSv/h(センサーの高さ地表10cm)を超えていました。
当然、見ただけではわかるはずもなく、子どもの手の届く場所には、あってはならない数値です。


子どもの通学路。手前の植え込みだけ、1.5μSv/hを超える





通学路にあるホットスポット


◆8μSv/hのホットスポット


この日、もっとも高い数値だったのは、あさか野バイパス沿いにある植え込みでした。

地表5cmで、8μSv/h近い数値を出しました。1mの高さでも、2μSv/hを超えます。


郡山市内を測定していても、これほど高いところは稀です
あさか野バイパス沿道の、坂のくだったところ


1mの高さでも、2μSv/hを超えた


場所は、坂道を下った場所。水の流れに沿って、放射性物質がたまってしまったのかもしれません。

「雪かきをした雪も、そのあたりにあったように思うから、それで高いのかもしれない」
と、Hさんは話します。


オレンジ色のポール部分がホットスポット。当然ですが、みただけではわかりません。




◆郡山市の道路除染課に通報する


8μSv/hという数値はあまりにも高いので、郡山市の道路除染課に電話で相談をしました。
窓口の方は、
「その場所が市の管轄か、国の管轄かわからないので調べて連絡します」
とのことでした。

しかし、数日後に、メールがあり、
「国道担当と話をしましたが、現在のところ除染および、『危険です』というような看板の設置はできません」
という対応だったのです。


◆「除染できない」「看板の設置はできない」


「除染できない」「看板の設置はできない」という対応はこのときだけではありませんでした。


その10日前の2014年11月20日にも、郡山市内の逢瀬川沿いの歩道でホットスポットを見つけていました。

地表5cmの高さで3μSv/hを超えるところです。


地表5cmで、3μSv/h



逢瀬川沿いは遊歩道になっていて、マラソンをする人、自転車で通行する人、犬の散歩をする人もいます。公園も近くにあります。測定中にも、散歩をする人が何人か通り過ぎていきました。


地表5cmで3μSv/hというのは局所的なものでしたが、芝生の上では地表20cmで0.7~1μSv/hと、高い数字が一帯に広がっていました。



河川敷の遊歩道 この一帯は地表20cmで、0.7~1μSv/hありました。

逢瀬川は一級河川のため、管轄は福島県。すぐに電話で「ホットスポットを除染をするか、あるいは『ここは放射線量が高い』ということを示す看板をたててほしい」と、お願いしました。


しかし、県の担当者からは、


「現在、河川の除染の実証実験を行っているところなので、除染はできません」

「危険です、という看板をたてる、という対応をしたことがないので、できません」
「もし除染をしたいのならば、ご自分でやってくださってもいいですよ」

と、言われたのです。


近くには、仮設住宅もあるところ。木製のベンチには、避難されているお年寄りが座っている風景を、よく見かける、と、一緒に測定した郡山市のNさんは言います。

そのベンチの測定値も、0.5μSv/hを超えていました。


センサーをベンチの上に置くと、0.5μSv/h


◆Hさんの通報を受けて――


8μSv/h近い放射線量のあったあさか野バイパスの沿道。

一緒に測定をしたHさんは、あきらめずに、国土交通省にも電話をしていました。

その結果、2015年2月、このような状態になっています。



通報を受けて、対応されたホットスポット

「本当は、ちゃんと『放射線量の高い場所です』と周知してもらいたかったんですけれど。でも、何もしないよりは良かったです」


と、Hさんは話します。


お子さんが入学する前の春休み、Hさんは測定したマップを持ち、一緒に確認をしながら、通学路を歩いたそうです。

子どもたちが毎日歩く通学路のホットスポットは、できるだけなくしてほしいものです。

すぐに除染ができないのであれば、「近づいてはいけない」ということを、きちんと周知するなど、行政の誠意ある対応が待たれます。



(文責・吉田千亜)